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北杜市情報ブログ村 過去記事

  • 鯵の開き

    宅急便が届いた。思ったよりも重く、手にした箱は冷えていた。あ、クール宅急便か。 学生時代、自分は容姿が劣る事を十分認識していた。それが僕を引っ込み思案にしていた。特に女性はやたらに眩しく見えた。お洒落な学校だった。もう誰もが制服姿の女子高生ではなく大人の女性だった。アクセサリーや香水の香りが更に僕を緊張させた。自分は全く委縮した肉の塊だった。彼女達が近くを通り過ぎただけで下腹部に熱いものを感じた。頑張って話しかける。自分でもわかるほどに顔が赤くなっていた。いくつもの憧れが風船のように大きく膨らんで来たが、途中で萎むか、手を離れて飛んでいってしまった。…本当はもう少し前向きなはずなのにな、という…

  • 壁飾り

    引っ越した高原の家にはこれまで飾っていなかった絵を飾った。簡素な部屋にしたいのに妻が作った額入りの刺繍や飾っていなかった絵も飾るとなんだか急に所帯じみてしまった。そこで居間から絵を外して、代わりに寝室と自分の書斎に飾った。 自分の部屋には妻の刺繍、南アルプスを描いた甲府盆地の絵、そしてデュッセルドルフのライン川の西岸の森の絵を飾った。迷った挙句に、そこに一枚の絵を追加した。本物は遠くウィーンの美術館にある。複製画も買えるわけもない。それは多分写真をスキャンしたのだろうか、ポスターだった。それを額に入れて壁に掛けたのだった。 西洋絵画など子供の頃は興味が無かった。しかし中学や高校の美術の教科書は…

  • さんぽ

    あんまり元気に歌わないでね。そう男性が声をかけている。車椅子で歌うのは女性だ。年齢からみて父と娘か、いや、祖父と孫か。もう一人の女性も付き添っていた。父と娘そしてその娘。言い換えれば母子とその父親、祖父と子と孫。そんな関係だろう。車いすの女性は年齢がよくわからない。二十代にも三十代にも思えた。 彼女はしかし繰り返す。「♪あるこ、あるこ、わたしはげんき」と。場違いで調子のはずれた呑気な歌声は病院の白い壁に少しだけ反響していた。僕はその歌を知っていた。諳んじている。それどころか僕も大声で歌ってきた。森に棲み、傘をさして空を飛ぶ。ときに猫型のバスにもなる。幼い姉妹は森でそんな大きな妖精に出会う。彼は…

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