桜の夜
桜の花びらが舞っている。夜風が冷たい、それが花びらをこの時期まで枝にとどまらせたのだろう。やや強い風に枝からはらはらと離れて気まぐれな空気の中を泳いでいた。 三十三年前の今日。ちょうどこの時間帯に自分達は六本木のトラットリアに居た。気取らぬ店だった。学生時代の友人が二人で仕切ってくれた。男の友人はそれがプレッシャーだったのか、何度かトイレに行っていたという。女性の友人は笑顔でそつがなかった。それは自分達二人がごく近しい人たちだけを呼んだ小さなパーティだった。 どんな料理が出たのかも、立食だったのかも覚えていない。ただ女性の友人が伝手を使いその店を貸し切りにしてすべてをアレンジしてくれた事、そし…